温泉セラピー


 温泉王国の日本では温泉浴療法が発達してきました。入浴以外の温泉療法はあまり普及していません。

  吸入療法
  通気療法
  鼻浴療法
  うがい療法
  飲泉療法
  噴射療法
  蒸気浴療法
  鉱泥療法
  運動浴療法

温泉療法の作用メカニズムは 
       1、温熱による作用
       2、水圧による作用
       3、浮力による作用
       4、粘性による作用
       5、溶存イオンによる作用
です。1-4は真水(家庭の風呂)でもほとんど同様の効果です。

❏ 運動浴療法


 肺気腫、慢性喘息、慢性気管支炎などに有効です。

 方法:
  ① 38℃くらいの湯に肩までつかります
  ② ゆっくりと息を吸い込みます
  ③ 口と鼻を水中に沈めます
  ④ 水中にゆっくりと口から息を吐き出していきます
  ⑤ 口を水から空中に出します
           (以上を20-30分ほど繰り返します)

                                         
温泉浴療法

    高血圧
       温熱により血管が拡張します。
       手足にある前毛細血管括約筋が弛緩して前毛細血管が開くため、動脈血が毛細血管を通らずに直接に静脈に注ぎます
       炭酸ガスや硫化水素などは直接皮膚から血管に浸透し血管を拡張させます。
       これらの結果、血管抵抗は低下し、血圧は下がっていきます。

    心不全
       静水圧により下半身の静脈の血液が押し出されて、静水圧の及びにくい(圧の低い)
       胸郭内に還流してきます(静脈還流の増大)。心臓に静脈血が還流してくる結果、
       心臓の拍出量は増加してきます。また心臓が拡張してくると、利尿作用のある物質が
       心房から分泌され、尿量が増加して体液量が減少してくるので、心臓の負担は軽くなります。
       これらの結果、心不全は改善していきます。

    アトピー性皮膚炎
        硫黄などを含む温泉(草津温泉、玉川温泉など)には殺菌作用があります。
        

❏ 入浴法

        1 家族に知らせる、一人で入らない
        2 浴槽の蓋を活用し、事故防止を図る
        3 更衣室と浴室の温度管理
        4 入浴前後に水分補給
        5 42度以上の湯には入らない
        6 水位は胸まで
        7 朝の入浴は避ける
        8 飲酒後は入浴しない


❏泉質

1、温泉に入浴した場合、物理作用(温熱、静水圧、浮力、粘性)については泉質の差はほとんどありません。

2、化学作用は千差万別です。特に皮膚への直接作用は多種多様です。

3、入浴以外の治療法(吸入、飲泉など)では泉質の差がでてきます。

4、温泉療法の効果がでるまで1月間以上かかります。2-3日では話になりません。

日本の温泉について:

 生体の皮膚を貫通して体内に侵入できるような物質は極くわずかで、炭酸ガスと硫化水素くらいです。
したがって温泉成分(泉質)により「入浴」の治療効果に差がでてくるのは皮膚疾患くらいです。これ
以外の場合は「入浴」による泉質の差はほとんどありません。
ちなみに炭酸ガスと硫化水素は血管拡張作用がありますので、高血圧や心臓疾患には有用です。

日本には二千余の温泉があり、みんなひとつひとつ泉質は違います。つまり二千余の温泉に二千余の
効能が存在します。泉質は多量に含まれているイオンや化合物で命名されますが、微量物質でも大きな
医学的作用を持つこともあります。成分表に記されてない物質が実はその温泉を支えていたということもあります。

温泉法と泉質について:

温泉法により認められている成分は18種類です。
しかしこれら18成分を基準に分類しているのではなく、実際には濃度の高い元素によって分類され
ています。もちろんこの18種類を指定した医学的根拠は全く不明です。

泉質には掲示用泉質名、旧泉質名、新泉質名の3種類があります。

A 単純温泉

単純温泉      単純温泉、アルカリ性単純泉
溶存成分が1g/L以下の温泉。薄い薄い塩水と考えて良い。単純温泉のなかで、pHが8.5以上を
アルカリ性単純泉という。
効能:温熱一般の作用(疼痛、末梢循環)の他に塩による化学作用(皮膚疾患、外傷)があります。
  単純温泉
    阿寒湖(北海道)、層雲峡(北海道)、作並(宮城)、
    宝川(群馬)、鹿教湯(長野)、強羅(神奈川)、
    箱根湯本(神奈川)、伊東(静岡)、下呂(岐阜)
    
  アルカリ性単純泉
    湯瀬(秋田)、飯坂(福島)、越後湯沢(新潟)、
    鬼怒川(栃木)、老神(群馬)、谷川(群馬)、
    石和(山梨)、伊東(静岡)

B 二酸化炭素泉

単純炭酸泉     単純CO2泉
二酸化炭素を1g/L以上含む温泉。無色透明で酸味があり、清涼感がある。気泡が肌について
爽快感がある。古い火山には多いが、若い火山の多い日本では少ない泉質です。
効能:炭酸ガスによる血管拡張作用で、高血圧、心疾患、末梢循環不全など。
    肘折(山形)、湯村(兵庫)、長湯(大分)、辰頭(熊本)

C 炭酸水素塩泉

重炭酸土類泉    Ca(Mg)-HCO3泉
炭酸水素イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンを含む温泉。
無色透明で肌がスベスベします。
    赤倉(新潟)、鹿沢(群馬)、御宿(千葉)、島原(長崎)

  アルカリ土類金属:
     化学周期表の2族元素 (Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra) のうち
     周期表の下のほうに位置する Ca,Sr,Ba,Ra を指す。
     アルカリ金属(1族元素;K, Na)とアルミニウム(3族元素;鉱物や土壌中に広く存在し
     ている)の中間的な性質をもっているので、「アルカリ・土類」と呼ばれています。

重曹泉(アルカリ泉)   NaHCO3泉
炭酸水素イオン、ナトリウムイオンを含む温泉。
無色透明で肌がなめらかになります。飲用で胃炎胃潰瘍に効能あります。
    支笏湖(北海道)、川湯(和歌山)、龍神(和歌山)、人吉(熊本)

  ただし、1日分が数十円程度の胃腸薬でも確実に胃炎胃潰瘍を治せます。従って「胃腸病
に良い」とされるけれども、胃腸病の治療のためだけで温泉地に来るほどの理由はありません。

重曹は次の反応で胃酸(HCl, pH 1.0)を中和します。
     NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
つまり重曹は制酸剤として働きます。

D 塩化物泉

食塩泉        Na-Cl泉
食塩、つまりナトリウムイオンと塩素イオンを含む温泉。
無色透明ですが、塩辛い。肌にべとつくがよく温まります。とくに皮膚疾患に効能があります。
    定山渓(北海道)、ニセコ(北海道)、旭(北海道)
    秋保(宮城)、四万(群馬)、熱海(静岡)
    稲取(静岡)、湯平(大分)

E 硫酸塩泉

硫酸塩泉       SO4泉
硫酸イオンを含む温泉。無色透明で、苦味があります。日本に多い泉質で薬用効果も大きい。
古より、「中風の湯」「脳卒中の湯」「傷の湯」と呼ばれていて、温泉の横綱で、まさに「
薬湯」といえます。 陽イオンによりさらに分類されます。
  硫酸マグネシウムなら正苦味泉
  硫酸ナトリウムなら芒硝泉
  硫酸カルシウムなら石膏泉といいます。
  硫酸鉄なら緑礬泉といいます(鉄泉のほうに分類されます)。
正苦味泉:十勝岳(北海道)、オンネトー(北海道)、
       旭岳(北海道)、地獄谷(長野)
芒硝泉 :浅虫(青森)、川尻(岩手)、天童(山形)、
     赤倉(山形)、遠刈田(福島)、大森(福島)、
     須賀川(福島)、湯宿(群馬)、尖石(長野)
石膏泉 :白布(山形)、法師(群馬)、尻焼(群馬)
     四万(群馬)、猿ヶ京(群馬)、水上(群馬)、
     川原湯(群馬)、赤倉(新潟)、湯河原(神奈川)
緑礬泉 :恐山(青森)、微温湯(福島)、草津(群馬)

F 含鉄泉

鉄泉          Fe泉
鉄を10mg/L以上含む温泉。湧出直後は無色透明だが、空気に触れて酸化すると、茶褐色~黄色に変わります。
   赤湯(福島)、天狗(長野)、有馬(兵庫)、鉄輪(大分)

一般に鉄欠乏性貧血の治療には鉄剤を毎日100-200mg服用します。温泉水(10 mg/L 程度)
で鉄欠乏性貧血を治す気なら、毎日10-20リットル飲まねばならない計算になります。もちろん
鉄欠乏性貧血以外の貧血には全く効きません。

 成人の鉄欠乏性貧血は、癌などの悪性疾患が原因のこともありますので、温泉なんかで
のんびりする前に、血液内科や消化器内科(外科)へまず行ってください。

G 含アルミニウム泉

含明礬緑礬泉    AlFe(II)-SO4泉
明礬とは硫酸アルミニウム、緑礬とは硫酸鉄のこと。両方の成分を含むことが多い。
  明礬泉:川湯(北海道)、八甲田(青森)、須川(岩手)
  緑礬泉:蒸ノ湯(秋田)、鷲鞍(福島)、草津(群馬)

    正確にいうと、明礬(ミョウバン)とは AlK(SO4)2・12H2O で、
    正八面体の結晶となります。

H 硫黄泉

硫黄泉
  単純硫黄泉           単純硫黄泉  
  単純硫黄泉(硫化水素型)  単純硫化水素泉
硫黄を1mg/L以上含む温泉。硫化水素ガスによる卵が腐ったような臭いがします。
湧出直後は無色透明だが、空気に触れて酸化すると、白濁~黄色調になります。
苦味があり、肌荒れしやすい(湯まけ)。強酸性なので殺菌効果があり、皮膚疾患や外傷が適応症。

薬用効果は高く、温泉通にはたまりません。古くから万病に効くといわれてきました。
しかし火山の近くに多いため、火山ガスによる事故は少なくはありません。
   
硫黄泉はさらに、
  遊離炭酸や硫化水素を含まない単純硫黄泉と
  炭酸ガスや硫化水素を含む硫化水素泉とに分類されます。
単純硫黄泉            単純硫黄泉
   登別(北海道)、玉川(秋田)、繋(岩手)
   別所(長野)、戸倉上山田(長野)、
   日光湯元(栃木)、万座(群馬)、雲仙(長崎)
単純硫黄泉(硫化水素型)   単純硫化水素泉
   黒湯(秋田)、孫六(秋田)、大沢(岩手)
   岩泉(岩手)、野地(福島)、老神(群馬)、
   熊の湯(長野)、湯田中(長野)、霧島神宮(鹿児島)

I 酸性泉

単純酸性泉
水素イオンを1mg/L以上含む温泉。一般に高温で、酸味があり、肌に刺激があります。
しばしば硫化水素、明礬、緑礬などを含んでいて、それぞれ酸性硫化水素泉、酸性明礬泉、
酸性緑礬泉と呼ばれています。殺菌力があるため、効能は皮膚疾患や外傷など。
   岳の湯(福島)、蓼科(長野)

J 放射能泉

放射能泉
微量の放射能を含む温泉で、ラジウム泉、ラドン泉、トリウム泉などがあります。効能や
メカニズムの検証は未知のまま。「放射能」ではありますが、極微量なので害はありません。
いやむしろ、微量の放射能は生体の免疫機能を高め、ストレスを和らげるなどの効果が報告。
   増富(山梨)、赤石(山梨)、赤石(山梨)、
   有馬(兵庫)、三朝(岡山)、養老(広島)

放射能は大量では大災害を引き起こしますが、微量では逆に適度な刺激となって生体の免疫力を
高めたりして有益です(ホルメシス効果)。

放射能泉の地域に永年住んでいる人の寿命が短いということはなく、白血球や染色体にも異常が
ないことが報告されています。むしろ癌の発生率が少ないという報告もあります。

         重曹泉   NaHCO3
         明礬泉   AlK(SO4)2
         緑礬泉   FeSO4
         正苦味泉  MgSO4
         芒硝泉   Na2SO4
         石膏泉   CaSO

❏ 三大美人湯

群馬県 川中温泉 石膏泉  pH 8.4
和歌山県 龍神温泉 重曹泉 pH 7.8
島根県 湯の川温泉 石膏泉 pH 8.4

 いずれも知名度は高くはありませんし、観光客や湯治客で賑わっているわけでもあ
りません。日本の温泉のほとんどは酸性泉ですが、三美人の湯はアルカリ泉です。温
度も適度で刺激の強いイオンも含まれていないようです。皮膚の角化を促進したり、
保湿つまり潤いをもたせたり、皮脂を洗い落としたり、また皮膚の上で洗浄作用のある
物質?に変わっていき、皮膚の汚れをおとしているらしいことがわかってきました。

1、抗菌作用
  マンガンイオンとヨウ素イオンの共存により強い殺菌作用がみられます。

2、角化作用
  カルシウムイオンとメタケイ酸ナトリウムの共同作業で皮膚の角質膜の形成を促進します。

3、清浄作用
  アルカリ塩類により皮脂が乳化され除去されていきます。

4、保湿作用
  重曹泉や芒硝泉では皮膚の水分含有量が増えてきます。

5、柔軟化作用
  炭酸水素ナトリウムなどでは皮膚が柔らかくしなやかになります。

6、被覆作用
  溶存物質が皮膚を覆って、物理的刺激や化学的刺激から皮膚を保護します。

温泉の言い伝え

熱の湯
保温効果があり湯冷めしにくい温泉という意味で、芒硝泉(Na2SO4)などを指します。芒硝泉
には保温効果の他に血管拡張作用もあり末梢循環を改善し四肢末端まで温めます。

冷の湯
炭酸泉(CO2)を指します。炭酸ガスのため清涼感があり、皮膚についたガスが気化熱を
奪うため冷えやすい。

傷の湯
芒硝泉を指します。芒硝泉(Na2SO4)には殺菌作用、角化作用、肉芽形成作用、被覆作用があり、
創傷治癒に有用で、痔疾、褥瘡、術創にも効果があります。芒硝泉だけでなく、硫黄泉、
食塩泉、重曹泉なども傷の湯と伝えられている地域もあります。

中風の湯、脳卒中の湯
芒硝泉を指します。血管拡張作用により血圧を下げる効果があり、脳卒中の最大の危険因子で
ある高血圧に有用です。また血管拡張作用により末梢循環が改善するので脳卒中で麻痺した
手足の機能回復訓練(リハビリテーション)にも有用です。

たんの湯
芒硝泉(Na2SO4)、重曹泉(NaHCO3)、食塩泉(NaCl)には吸入により、喀痰の粘稠度を低下さ
せて(痰をサラサラにして)排出しやすくします。肺気腫、慢性気管支炎、慢性喘息などに
有用です。ただし硫黄泉(SO2, H2S, S)には刺激臭があり、喘息の発作を誘発する危険があります。

子宝の湯
意味不明です。卵巣機能、子宮機能、女性ホルモン、性欲などに関しての研究が散見されま
すが、科学的に客観性のある新知見はないようです。泉質も千差万別です。
     蒸ノ湯(秋田、酸性硫黄泉)、孫六(秋田、単純硫化水素泉)、
     東鳴子(単純硫化水素泉)、五色(山形、単純泉)、
     栃尾又(新潟、単純ラジウム泉)、宝川(群馬、弱アルカリ単純泉)、
     吉奈(静岡、含芒硝苦味泉)、有馬(兵庫、含鉄食塩泉)ーーー。

胃腸の湯
重曹泉、食塩泉には飲泉により、胃腸粘膜の血流を増加させ消化機能を高めます。また胃腸粘
膜の保護作用もありますので、胃腸の湯といわれています。

年寄りは一番風呂に入れるな
湧出したばかりの温泉あるいは沸かしたばかりの湯は不純物が少なく温熱作用や化学作用が高く、
高齢者には副作用も強くでます。何人かが入浴すると湯のなかには皮脂(垢)や汗などが混入
して温熱作用や化学作用が弱まり、高齢者には良い湯加減となります。

宝水
水浴により静水圧がかかり、下半身にあった血液が低圧部(肋骨で囲まれて静水圧のかかり
にくい胸郭)へ押し出され移動していきます。このため心臓に血液が集まり心臓は血液(水分)
過剰、つまり心不全と勘違いをして水分を体外に排出するために利尿ホルモンを分泌して、腎臓
に尿を産生させます。その結果、水浴後は尿意をもよおします。また発汗や排尿により体内の
水分が失われ脱水状態となり、血液の濃度は高まり(血液粘度の上昇)、ドロドロとして流れ
にくくなります。血管に血液が詰まりやすく、また血液が固まりやすくなり(血液凝固)、脳
梗塞や心筋梗塞などの血栓症を引き起こしやすくなります。これを予防するために入浴後に水を
飲み水分を補給して血液粘度の上昇を抑えます。入浴後に飲む水のことを脳卒中を防ぐ命の水
という意味で「宝水」といいます。


熊の湯、鶴の湯、鹿教湯(かけゆ)
言い伝えではなく実在する地名です。傷を癒すために熊、鶴、鹿などの動物が温泉に浸かってい
たことからこのような温泉名がついたそうです。

なおし湯、仕上げ湯
強い酸性の草津温泉で湯ただれした皮膚を、隣の沢渡温泉の柔らかい湯で治していきました。
このように強い温泉に入って湯負け(酸性泉浴湯皮膚炎)など湯ただれした皮膚を癒すために
入る柔らかい泉質の温泉のことを「なおし湯」とか「仕上げ湯」といいます。